大手専門店の販売する苗は基本的に芽接ぎ苗です。これはおそらくパテントの関係で制約があるからだと思います。挿し木苗を認めると個人が勝手に増殖させてオークションで販売しても見分けがつきません。芽接ぎにはある程度技術が要りますし、スペースや台木その他の手間がかかり一般の人が気軽にできないのでプロの出番になるわけです。
【芽接ぎ苗】
新苗(鉢) 台木に接ぎたて初年度の春~夏に出回る若い苗
中苗(鉢) 新苗の売れ残りを中心に秋に出回る苗(基本的に見かけない)
大苗(鉢) 中苗の売れ残りで次の春に1年を超える苗 10月頃ある大苗は大体これ
大苗(掘り上げ→鉢) 接いだ後、畑で管理し、年末頃から掘り上げて販売する苗 2月が適期だが繁忙期のせいか年末から3月まで広く扱う
長尺苗 あえて短く剪定せず長さを保った苗(秋ごろ出回る)
裸苗 掘り上げの大苗の土のついていない状態のもの
鉢や土がつかないため安価で輸送のメリットがある
*根を確認しやすいので癌腫が気になる購入者に好まれる
【挿し木苗】 生育のよい枝先から挿し穂を作り、自根を出させた苗
苗については私の主観による分類です。よく中苗をセールするのは「バラの家」で、価格の下げ幅に応じた苗のコンディションになります。蕾つき苗を売りにしたセールも行うので、売れ残りになると消耗した株で届く可能性もあります(それでワゴンセールになるんだと思います)。
前年の売れ残り大苗(鉢)は、ナーセリーではないホームセンターや流通先の販売店に多いです。ネットの販路を持っていないので店頭セールで売れ残るとそのまま切り戻して大苗として並びます。掘り上げの大苗も売れ残ると2年生苗、3年生苗として年を重ねる可能性があります。
一方で、ミニバラなどは挿し木苗が流通します。多くがピートモスを主とした土で安価に出回り、個人的には長期栽培を想定しない一時的贈答品として流通しているように思います。園芸初心者にとってミニバラは難易度の高い商品でしょう。環境にうまく適応しないと病気にかかりやすく、害虫被害にも遭いやすいです。
その軟弱さを補うために、挿し木で販売するようなミニバラでも芽接ぎ苗を生産することがあります。台木の体力があるので早く大きく育ちます。生産者にとっても芽接ぎ苗はいいことだらけで、台木を用意してしまえば(数センチの芽を接ぐだけなので)量産できます。管理が楽で見ばえもいいので価格設定も高くできます。数芽分の挿し穂を1株分に確保するより芽を複数取って接ぐ方が利益も出やすいですね。
ただ、芽接ぎ苗にはデメリットもあります。
・挿し木苗に比べて癌腫になりやすい(台木の脆弱性)
・接ぎ口から折れると再起不能(強風)
・接ぎ口より下に虫が入ると再起不能
・ベーサルシュートが出にくい(乾燥)
・品種によっては仕立てにくい
・台木利用により寿命が早い
・サッカーが出る
パテント切れ品種の挿し木は一部では流通していますが、パテント品種を扱わせてもらっている生産者や店舗では常識的に販売しないと思います。扱っているのは大抵ブランドと直接付き合いのない店舗ではないでしょうか。また、消費者の側も「挿し木苗は生育が遅い」と思っていることもあり、需要もあまりないようです(でも、よく育った挿し木苗であれば高価でも価値があると思います…)。
ネットバラ苗店はパテント最新品種の仕入れや自家生産、オリジナル品種販売を安価で大量に扱うことで注目を集めています。これもまた賢い経営手法であって、バラを初めて育ててみようという初心者を多く取り込むことでバラ界に貢献しています。
一方で、ネット媒体の小規模販売店もあります。品質は高いものの、品種が限られていたり在庫が切れていたりという不便もありますし、場合によっては不親切で悪質な業者に当たる可能性もあります。消費者はどこでどのように購入するかをよく吟味し、納得して購入する必要があります。
話を戻しますが、私は挿し木苗を好んで購入しています。サイズが小さい方が鉢管理がしやすいし、ゆっくり成長を楽しむことができます。品種によっては芽接ぎしてしまうと真横にシュートが出て暴れるので、ベランダには適しません。パテントの関係で挿し木が手に入らないものは大苗を購入し、地植えにします(そして個人で楽しむ範囲で挿し木を作ります)。植え付け時に深植えして早い年数のうちに自根を出させてしまえばいいかなと思います。自根が出てしまえばシュートも出やすく癌腫にもかかりづらくなり、カミキリムシ被害が致命傷になりにくいように思います。
以上、今回の記事は個人の趣味の範囲での考えなので、専門的な議論をする気はありません。栽培なさる方は自身で考えて、最適な方法を選択してください。
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